【発狂】たいくつな僕は夢を見た

 

とにかく退屈だ。僕はこたつから顔だけを出していた。

足がこたつの外に出ないように、きゅっと身体を縮めていた。


すぐ横にはスマホがあった。

退屈だからYou Tubeでも見ればいいのだが、

サイトの中から動画を選ぶのさえ面倒くさかった。

オナニー用のAV選びでさえも。

ハァ、とにかく退屈だ。

 

 

 

 

 

本当に何もすることがない。

どんな本も、テレビも、動画も音楽も、僕の退屈を慰めてはくれない。

 

僕はたった一人だと感じた。

僕は目を閉じた。

目を閉じた拍子に目から涙がこぼれた。

そして、暗い暗い世界に沈んでいった。

なにもない暗い世界。

音のない世界。

だだっ広い世界。

そこに一人の人間がいた。

そこで彼は膝を抱えて泣いていた。

僕にはそれが見えた。

 

彼は悲しくて泣いているのではない、怯えて泣いていることが僕にはわかった。

この世界にはなにもないということが、彼には恐ろしくって恐ろしくってしょうがないのだ。

未知の世界は恐ろしい。その恐ろしいものと向き合えない自分。

彼は泣いている。僕は声をかけてやっても良かった。声が届くかどうかはわからないけれど。

でも、そうしないほうがいいと僕は思った。

僕は黙って彼を見守ろうと思った。

 

 

 

彼はずっと泣き続けていた。

そんな彼を見ていると、あんまり可哀そうで、自分の目にも涙が浮かんできた。

僕の目から一滴の涙がこぼれたとき、彼は泣き止んだ。

そして、腕の隙間から、チラリと空虚な世界を見た。

彼の目に映った世界はやはり空虚なままだった。

彼はまた泣き出しそうになった。

 

僕は、いても立ってもいられず、「大丈夫」と声をかけた。

彼に声が届いたのだろう。

彼は顔を上げ、立ち上がり、周囲を見渡した。

彼の目には何も映っていない。

 

彼は仰向けになって寝転がった。

この世界は上も下も、右も左もない。

どこをみても真っ暗な世界。

彼は寝転んだまま、「あー」と意味もない声を出した。

それはほとんど鳴き声に近い声だった。

彼はいろんな声を出した。

僕はそれに耳を傾けていた。

 

突然、彼は笑い始めた。

こんなに自然な笑い方は初めて見たと僕は思った。

どれくらいの時間彼は笑っていただろうか。

なにもない世界で、楽しくて仕方がないと言わんばかりの笑い声。

彼の笑い声を聞いていると、僕も顔がほころんできた。

そして、僕も笑った。

僕の笑い声は次第に大きくなった。自分でもこんな笑い声が出るんだと思った。

それが嬉しくなってまた笑った。

笑いは連鎖を繰り返し、僕にはもうわけがわからなくなった。

永遠に、僕は笑っていられるだろう、そう思った。

 

 

 

 

 

自分の笑い声で目が覚めた。

顔のすぐ横にはスマホがある。

僕は一連のことを思い出し、また笑いがこみ上げてきた。

 

シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、下着とパンツを脱いだ。

彼と一緒にいる感覚に陥った。

僕は全裸のまま外に飛び出した。

そして西に向かって走った。

 

あそこには太陽がある。

太陽は笑っていた。

彼のように、自然な笑い声を上げていた。

僕も自然に笑みがこぼれた。

風も、木も、山も、鳥も、虫も、犬も笑っていた。

そして彼の笑い声も聞こえた。

 

大爆笑しながら、全裸で僕は駆け抜けた。

 

 

 

 

 

世界は、僕だけに笑いかけている──!!